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文在寅「ツートラック」戦略の挫折

  • 執筆者の写真: Masanobu Matsuura
    Masanobu Matsuura
  • 2019年7月16日
  • 読了時間: 3分

更新日:2019年8月9日



 2017年の政権発足直後から、文在寅政権は、対日外交に関して、歴史認識問題とそれ以外の問題を切り分ける「ツートラック」戦略を展開してきました。朴槿恵前大統領の弾劾訴追で登場した現政権にとって、朴大統領が合意した「慰安婦合意」をはじめとする対日外交上の合意を否定することが革新・左派系から支持を得る上で重要であった訳です。よく言われているように、“ABP: Anything But Park(朴槿恵政権の外交政策以外すべてOK)”ということになります。しかし、日本による輸出制限措置によって、この対日戦略はうまく機能しないことがはっきりしました。


 日韓の鋭い対立に対して、もっとも強い懸念を持ってきたのが、両国の同盟国である米国です。東アジアに重大な権益を持つ米国にとって、民主的政治システムと自由主義経済を共有するジュニアパートナー同士(日韓関係)の安定的な関係はこの地域で米軍が活動する土台になってきたからです。このため冷戦から脱冷戦期にかけて、米国は一貫して、日韓の対立が深刻化しないようある種のリスク管理をしてきました。


 こうしたことを背景に、韓国野党内では「対米協力の要請」を求める声もあるようですが、肝心のトランプ自身が「リベラルな国際秩序」の維持に対してまったく関心を持たないだけでなく対中保護貿易政策を繰り広げ、さらに日米が蜜月関係を続けている以上、米国を介在した対日交渉で韓国が成果を得ることは難しいように思います。


 また、WTOを通じた国際機構への働きかけですと、長期化するでしょうからあまり実効性がなさそうです。結局、冷戦期のように対日特使を派遣する等、バイの交渉以外打つ手がなさそうですが、文在寅自身が日韓関係の経済・安保上の価値を今のところ理解していないようですので、日本側にとって意味ある措置を講じるようにも思えません。


 東アジアの中の日韓関係という図式からみて、むしろ私が最も関心があるのは、今回の輸出制限措置をめぐる問題が、1965年以降、日韓が形成してきた両国の安全保障協力関係にどこまでダメージを与えるのかということです。直近で考えれば、韓国がGSOMIA「日韓軍事情報に関する包括的保全協定」の自動延長を拒否するのかどうか。 日韓捜索・救難共同訓練(SAREX)に影響があるのか。二国間交流・防衛交流、防衛相会談を実施しなくなるのか等、リトマス試験紙になるような素材が多くあります。

 

 特に、2016年に両国が締結したGSOMIAですが、両国はこの軍事協定を根拠に、「口頭、映像、電子、磁気若しくは文書の形態又は装備若しくは技術の形態」をとる軍事秘密情報を共有し、両国とも一定の効果を確認しています。日韓関係史的には両国が締結した初めての軍事協定でしたので、もし破棄されるようなことがあれば、外交安全保障上、重要な変化となります。


 ちなみに、本協定は「終了させる意思を九十日前に外交上の経路を通じて書面により通告しない限り、その効力は、毎年自動的に延長」されることになっており、8/24日がGSOMIA延長の可否を決める期日となっています。GSOMIA破棄ということになれば、両国の安保協力は「朴槿恵以前の時代に逆戻り」しますし、北朝鮮が核保有国化を進め朝鮮半島の安保環境がアンバランスになったという評価になりそうです。



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